赤道の海が「+2.5℃」。それが、なぜ日本の冬のニュースになるのか
8月10日、気象庁から「エルニーニョ監視速報」が発表されました。
その資料を眺めていて、目が止まった数字があります。
+2.5℃。
2026年7月、南米沖に近い太平洋赤道域の海面水温は、基準値より2.5℃高くなっていました。
しかもこれは、7月としては1949年以降、あの1997年と並んで最も大きな値です。
気象庁は、春から続いているエルニーニョ現象が冬まで続く見込みを「100%」としています。
こういうニュースを見ると、
「今年はエルニーニョか。じゃあ暖冬になるのかな」
と思うかもしれません。
実際、天気のニュースでは「エルニーニョ」という言葉が、夏の暑さや冬の暖かさを説明するキーワードとしてよく登場します。
でも、高校で地理を教える側から見ると、ここでいつも一つ引っかかることがあります。
そもそも、なぜ赤道の海の温度が、日本の天気に関係するのでしょう。
場所を地図で確かめると、その不思議さがよくわかります。
気象庁がエルニーニョを監視している海域は、日本から何千キロも離れた太平洋の赤道付近です。
そこで海が2.5℃ほど暖かくなったからといって、その海水が日本まで流れてくるわけではありません。
なのに、その変化が日本の夏や冬のニュースになる。
この間に、何が起きているのでしょうか。
海は、思っている以上に「風に動かされている」
まず、いつもの太平洋を見てみます。
赤道付近では普段、「貿易風」と呼ばれる東寄りの風が吹いています。
この風は、海面付近の暖かい水を西へ西へと押していきます。
そのため、インドネシアなどがある太平洋西部には暖かい海水がたまりやすくなります。
反対に南米側では、表面の水が西へ運ばれたぶん、海の深いところから冷たい水が湧き上がってきます。
つまり、普段の赤道太平洋は、
西は暖かい。
東は比較的冷たい。
そんな大きな東西差を持っています。
ここで大切なのは、「暖かい海」というのが単に水温の話ではないことです。
海が暖かければ、海面から多くの水蒸気が供給されます。
暖かく湿った空気は上昇し、雲をつくる。
インドネシア周辺の暖かい海の上では、積乱雲を伴う活発な対流が起こります。
海の上に、巨大な上昇気流のエリアができているようなものです。
ところが、エルニーニョが起きると、この配置が変わります。
暖かい海が、東へ広がっていく
エルニーニョ現象が起きているときには、赤道付近を吹く貿易風が普段より弱くなります。
すると、それまで西側に押し込められていた暖かい海水が、太平洋の中央から東側へと広がっていきます。
南米側では、冷たい深層水の湧き上がりも弱まります。
その結果、普段なら比較的水温の低い太平洋中部から東部の海まで暖かくなる。
これがエルニーニョ現象です。
2026年7月は、まさにその特徴がかなりはっきり現れていました。
太平洋赤道域の中部から東部は平年より暖かく、西部では逆に低い場所がありました。
さらに日付変更線付近では対流活動が平年よりかなり活発になり、貿易風もかなり弱くなっていました。
ここで、海だけを見ていると大事なものを見落とします。
暖かい海が東へ移ると、
雲が盛んにできる場所まで移るのです。
この瞬間から、話は「海水温」だけではなくなります。
日本にやって来るのは、暖かい海水ではない
積乱雲が大量に発生する場所が変われば、そこで起きる空気の上昇も変わります。
大量の空気が上昇する場所が変われば、その周囲を流れる空気も変わります。
すると、その影響は熱帯だけでは収まりません。
上空を流れる巨大な風の帯まで少しずつ変化します。
エルニーニョ現象の夏には、インドからフィリピン周辺の積雲対流が弱まる傾向があります。
それに伴って、日本付近を流れる亜熱帯ジェット気流の位置が変わり、太平洋高気圧も本州方面への張り出しが弱くなる傾向があります。
冬になるとまた少し仕組みは変わりますが、フィリピン周辺の積雲対流の変化が上空のジェット気流やアリューシャン低気圧などに影響し、日本付近の冬の季節風にも関わってきます。
つまり、日本までやって来ているのは「赤道の暖かい海水」ではありません。
海が変わる。
その上にできる雲の場所が変わる。
空気が上昇する場所が変わる。
上空の大きな風の流れが変わる。
その先に、日本があります。
ここまでたどって初めて、
「赤道の海が2.5℃高い」
という数字と、
「今年の日本の冬はどうなる?」
というニュースが、同じ話の中に入ってきます。
ところが。
今年の資料をもう少し読んでいくと、さらに面白い一文が出てきます。