「水不足なら節水すればいい」と、私は生徒に言い切れない

「水不足なら節水を」。間違った言葉ではありません。むしろ必要です。それなのに、地理の授業でこの言葉を書くとき、私は少し手が止まります。蛇口を閉めることの向こうに、家庭だけでは見えない水の使われ方と、簡単には言い切りたくない理由があるからです。
地理おた部 2026.09.06
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黒板に、

「水不足 → 節水」

と書く。

とても分かりやすい授業です。

雨が少ない。ダムの水が減る。このままでは水が足りなくなる。だから、一人ひとりが水を大切に使う。

何も間違っていません。

私自身、水不足のときに節水が必要ないと言いたいわけでもありません。歯磨きの間に水を流しっぱなしにしない。シャワーを必要以上に使わない。できることを少しずつやる。そうした行動には意味があります。

それでも最近、この矢印一本で授業を終えることに、少し迷うようになりました。

今週、愛知用水の水不足について調べていたことがきっかけでした。

8月には愛知用水で節水対策が実施されました。

資料を見ていて、改めて目に留まったのは、単に「節水してください」と書かれているのではないことでした。

農業用水。水道用水。工業用水。

それぞれが分けられ、節水率も同じではありません。

考えてみれば当然です。

私たちが家で使う水と、田畑で使う水と、工場で使う水は、同じ「水」でも使われ方が違います。

なのに「水不足」というニュースを聞いた瞬間、私の頭に最初に浮かぶのは、やはり家庭の蛇口です。

「水を使う」と言っても、同じではない

たとえば家庭で水の使用量を少し減らすとします。

お風呂やシャワー、洗濯、食器洗いなど、生活の中には工夫できるところがあります。

では農業用水ならどうでしょう。

田畑では、作物を育てるために水を使います。必要な量や時期は作物や地域によって違いますし、「今日は節水だから使わない」というだけでは済まない場合があります。

工業用水も同じです。

製造、洗浄、冷却など、水が生産活動の中に組み込まれているところがあります。

ここで私は、一つの数字が気になるようになりました。

「10%減らす」ことは、本当に全員にとって同じことなのだろうか。

数字だけなら同じ10%です。

でも、その10%を減らしたときに起きることは同じではありません。

家庭なら、生活の中で少し工夫できる10%かもしれない。

農業なら、作物を育てるうえで重要な水かもしれない。

工場なら、生産のやり方そのものに関わる水かもしれない。

もちろん、実際の水利用はもっと複雑です。

だからこそ「節水」という一つの言葉だけでは、その違いが見えなくなることがあります。

「みんなで少しずつ」で、本当に公平なのか

「みんなで少しずつ我慢しましょう」

これも、とても使いやすい言葉です。

公平に聞こえます。

全員が同じように負担すればいい。

でも地理を教えていると、私はこの「同じように」という言葉を以前より気にするようになりました。

同じ距離。

同じ時間。

同じ金額。

同じ10%。

数字が同じだからといって、意味まで同じとは限りません。

今週の愛知用水の記事でも、愛知県で使われる水を考えるために、長野県の水源まで地図をたどりました。

水を使う場所と、水が生まれる場所さえ一致しません。

さらに、その水を生活に使う人、農業に使う人、産業に使う人がいる。

すると水不足は、

「水を無駄遣いしないようにしましょう」

という道徳的な話だけでは収まらなくなります。

誰が、どこで、何のために水を使っているのか。

水が少なくなったとき、その負担を誰が引き受けるのか。

そこまで考えなければ、水不足という問題の一部しか見ていないのではないか。

私は、そんなことを考えるようになりました。

ここから先では、私がなぜ「節水は一人ひとりの努力です」と授業で言い切りたくないのか、家庭の善意だけに問題を戻すことへの違和感、そして「正しい行動」を教える教師として失いたくないものについて書きます。

私は「節水は一人ひとりの努力です」と言いたくない

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