「正しい地図」を教えるだけでは足りない 地理教師が生徒に「地図を疑ってほしい」と思う理由

地図は正しくなければ困ります。それなのに私は、授業をするほど「地図をそのまま信じてほしくない」と思うようになりました。今週、歩道や段差の記事を書きながら、地理の授業で本当に教えたいのは何なのかを、あらためて考えました。
地理おた部 2026.08.30
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授業で地図を見せながら、

「この道を通れば、駅まで一番近いですね」

と説明する。

ごく普通の授業です。

地図上で距離を測れば、その説明は間違っていません。

けれど今週、歩行空間についての記事を書きながら、ふと引っかかりました。

もし、その教室に車いすを利用している生徒がいたら。

もし、足をけがして松葉づえを使っている生徒がいたら。

地図上では一番近い道でも、途中に階段があれば、その生徒にとっては「一番近い道」ではありません。

教師として説明したことは、地図上では正しい。

それでも、誰にとっても正しいとは限らない。

この違いを、私はどこまで授業で伝えられているだろう。

そんなことを考えました。

地図は「間違っている」から疑うのではない

今週、月曜日の記事では、地図アプリに「徒歩8分」と表示されていても、その8分が誰にとっても同じではないことを書きました。

水曜日には、国土交通省が歩道の幅や坂、段差などをデータとして整備しようとしている動きを取り上げました。

金曜日はさらに、実際に街を歩き、地図には見えていない「通りにくさ」を探してみる記事にしました。

三つの記事を書きながら、ずっと頭の中に残っていた言葉があります。

地図は、現実そのものではない。

これは地理を学ぶうえでは当たり前のことです。

現実の世界にあるものを、すべて一枚の地図へ描くことはできません。

道路、建物、川、標高、土地利用、人口。

何を載せるかを選び、必要のないものを省き、複雑な現実を分かりやすく表現する。

だから地図は役に立ちます。

もし現実をすべてそのまま載せようとしたら、情報が多すぎて、かえって何も読めない地図になってしまいます。

つまり、地図から何かが抜け落ちていること自体は、欠陥ではありません。

省略することも、地図を作るために必要な仕事です。

ここは、生徒にもきちんと教えなければならないと思っています。

ただ、その次にもう一歩だけ進んでほしい。

私は最近、そう感じることが増えました。

「この地図には、何が描かれていないんだろう」

地図を見るとき、私たちはどうしても「描かれているもの」に目を向けます。

高速道路はどこを通っているか。

人口が多い地域はどこか。

工業地帯はどこにあるか。

雨が多い地域はどこか。

もちろん、これらを読み取る力は大切です。

でも地図には、もう一つの読み方があります。

「描かれていないものを見る」ことです。

今週扱った歩道の段差もそうでした。

普通の道路地図には、数センチの段差まで描かれていません。

地図として間違っているわけではありません。

その地図を使う目的には必要ないから、省略されているだけです。

ところが、車いすで移動する人には、その省略された数センチが重要になることがあります。

すると、

「この地図は正しいか」

だけではなく、

「この地図は、何を見るために作られているのか」

という問いが必要になります。

さらに、その先には、

「この地図を使うとき、誰のことが見えにくくなっているのか」

という問いもあります。

地図を見ることは、世界を見ることです。

だからこそ私は、生徒に「地図を覚えてほしい」だけではなく、いつかこんな問いを持ってほしいと思っています。

「この地図には、何が描かれていないんだろう」

ただ、ここには教師として少し難しい問題があります。

地図の正しい読み方を教える立場の私が、生徒に「地図を疑ってほしい」と言っていいのだろうか。

私自身、そこをずっと考えています。

私は、生徒に「地図を信じるな」と教えたいわけではない

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