アプリの『徒歩8分』で見えない数センチ 地図に欠けた『歩く地理』
スマートフォンで目的地を検索すると、「徒歩8分」と表示されました。
地図の上には青い線が伸びています。あとは、この線の通りに歩けば着く。普段なら、それで何も困りません。
では、その道の途中に長い階段があったらどうでしょう。
車いすを利用している人なら、そのまま進めないかもしれません。ベビーカーを押している人、大きなキャリーケースを持っている人、足をけがしている人にとっても、地図が示した8分がそのまま8分になるとは限りません。
地図には、確かに道があります。目的地までの距離も間違ってはいません。
それでも、「道があること」と「そこを移動できること」は同じではありません。
いつも見ている地図を少し違う方向から眺めてみると、そこに「歩く地理」が見えてきます。
「一番近い道」は、誰にとって一番近いのか
地図アプリで経路を検索するとき、多くの人が最初に見るのは時間でしょう。
徒歩8分と徒歩12分なら、8分の方を選びたくなります。距離が短く、早く着く道を選ぶのは自然なことです。
ただ、実際に街を歩くとき、私たちが受ける影響は距離だけではありません。
坂が急なのか。途中に階段があるのか。歩道は十分に広いのか。大きな道路をどこで横断できるのか。駅ならエレベーターが使えるのか。
こうした条件によって、同じ100メートルでも移動のしやすさは大きく変わります。
たとえば、目的地は目の前100メートルの場所にあるのに、途中に階段があるとします。階段を使えない人は、エレベーターやスロープのある場所を探して300メートル、500メートルと迂回しなければならないかもしれません。
地図上で測った目的地までの距離は、誰にとっても同じです。
ところが、実際に移動するときの距離は違います。
地理で考える「距離」は、定規で測る長さだけではありません。交通手段によって変わる時間距離という考え方がありますが、徒歩の移動でも、同じように「近いのに遠い」ということが起こります。
地図を「点」と「線」で考えてみる
高校の地理でGISを扱うとき、「点・線・面」という言葉が出てきます。
駅や交差点を点として表し、道路を線として表す。公園や住宅地のように広がりを持つものは面として表す。
道路を考えると、この仕組みが分かりやすくなります。
交差点と交差点を線で結び、「どことどこがつながっているのか」という関係をコンピューターが読み取れるようにします。
こうしたつながりを利用して経路を考える仕組みが、ネットワークです。
カーナビや地図アプリが目的地までのルートを探すときも、道路がどのようにつながっているかという情報が欠かせません。
さらに、それぞれの線に「この道は何メートルある」という情報を持たせれば、距離の短い経路を探すことができます。
ところが、歩行者の移動を考えると、長さだけでは足りません。
同じ100メートルの道でも、平らな道と急な坂道では条件が違います。広い歩道と、人がすれ違うのも難しいほど狭い道も同じではありません。段差があるかないかでも、移動のしやすさは変わります。
そこで必要になるのが、「その道がどんな道なのか」という情報です。
ここから先では、道路の幅や勾配、段差まで地図のデータにする意味、最短ルートだけでは見つけられない経路、そして地図が「場所を示すもの」から「移動を助けるもの」へ変わりつつある理由を見ていきます。
地図は「線」だけでは足りない