金曜165.5mm、土曜12.5mm。それでも「中止は失敗」なのか 地理教師が結果論に迷う理由
9月5日と6日。
本来なら、宮崎県総合運動公園には日向坂46のファンが集まり、「ひなたフェス2026」が開催されているはずでした。
でも、イベントはありませんでした。
中止が発表されたのは9月2日。開催初日の3日前です。
そして実際に週末を迎えてみると、少し複雑な結果になりました。
金曜日、宮崎には本当に大雨が降った
まず、予想されていた危険がまったく来なかったわけではありません。
9月4日金曜日。
宮崎地方気象台の観測では、宮崎市の日降水量は165.5mm。1時間では最大46.0mmの雨が降りました。
宮崎市では大雨警報や土砂災害警戒情報が発表され、複数の地域に避難指示も出されました。大淀川水系でも川の水位が上昇しました。
私自身も大淀川の水位を見ながら、「これは本当にまずいかもしれない」と感じていました。
つまり、「台風を警戒したけれど、結局何も起こらなかった」という話ではありません。
危険は実際にありました。
ところが、ライブ当日の土曜日は12.5mm
翌日の9月5日。
宮崎市の日降水量は12.5mmでした。
前日の165.5mmと比べると、13分の1以下です。
午前中から避難所が閉鎖され始め、午後には避難指示も全域で解除されました。
そして6日の日曜日も雨はあったものの、少なくとも金曜日のような大雨にはなりませんでした。
ここで、もし中止になっていなかったフェス会場を想像すると、どうしても一つの考えが浮かびます。
「これなら開催できたのでは?」
楽しみにしていた人なら、なおさらそう思うでしょう。
何か月も前から予定を空けていた。飛行機やホテルを予約していた。宮崎まで行く準備をしていた。地元でも大勢の人が準備していた。
そのイベントが中止になったのに、当日になってみると想像していたほどの荒天ではない。
「判断が早すぎたのでは」
という疑問が出るのは、とても自然だと思います。
私だって、結果だけを見ればそう考えます。
でも、中止を決めた人は「土曜日の12.5mm」を知らなかった
ここで、時間を9月2日まで戻してみます。
中止を決めた時点では、9月4日に宮崎で165.5mm降ることも、9月5日が12.5mmになることも、まだ「結果」ではありません。
未来です。
台風の進路には幅があります。雨の強さにも幅があります。交通機関がどこまで影響を受けるのかも確定していません。
それでも、全国から人が動き始める前に判断しなければならない。
月曜日の記事で書いた「待てば予報は詳しくなる。でも、待てば人間の選択肢は減っていく」という問題が、ここで現実になります。
私たちは今、金曜165.5mm、土曜12.5mmという答えを知っています。
でも、判断した人たちは、その数字を知らないまま決めなければならなかったのです。
実は、人間は「結果」を知ると判断まで違って見える
この感覚には、心理学で研究されてきたものがあります。
「結果バイアス」と呼ばれる現象です。
同じ情報をもとに行われた判断でも、結果が良ければ「よい判断だった」と評価しやすく、結果が悪ければ「悪い判断だった」と評価しやすい。
1988年にJonathan BaronとJohn Hersheyが行った研究でも、判断時点の情報が同じであっても、結果を知らされた人は、その結果によって意思決定そのものの質まで違って評価しました。
これを今回の話に置き換えると、少し怖くなります。
もし土日に猛烈な雨が降り、交通機関が大きく乱れていたら、「中止して正解だった」と多くの人が言うでしょう。
逆に、土日が比較的穏やかだったら、「開催できたのでは」と思う。
でも、9月2日に使えた情報は、どちらの未来でも同じだったはずです。
結果を知っている私たちは、判断した当時の人よりずっと有利な場所に立っています。
ここから先は、私が地理の授業で「結果を見てから正解を決める」ことを恐れる理由、今回の中止を生徒と考えるなら何を問いかけたいのか、そして防災で「正しい判断」を教えることの難しさについて書きます。